ルーツの旅

ルーツの旅

世の中に溢れる様々なもの、の中から気になるものを拾い上げてそれのルーツをたどります。

利き手の旅

僕は左利きです。

 

我が家レベルで元を辿れば父も兄も元々は左利きでした。なので利き手に遺伝的要因が強く影響されることを僕は身をもって実感しています。ただ、父も兄も幼少期に矯正して右利きになっていたので、僕が物心ついた時には二人とも右手で食事をしていました。なので今現在我が家における純粋な左利きは僕一人になってしまいました。

 

父や兄の幼少の頃は左利きはまだ「矯正される」ものでした。おそらくそれより前の祖父母世代にとって左利きは一般的なものではない=日常生活に支障をきたす(障害チックなもの)という認識がされていたからだと思います。確かに文字を書いたり道具を使ったり、不都合が生じることは左利きの生活をしていると至る所であります。

 

右を表すRightという英語は「正しい」という訳もされます。つまり右手は正しい手。握手するときも大体は右手を使います。

一方左手を正しくないものとする文化も様々なところで見られます。イスラム教で左手が「不浄の手」とされているのが最たる例でしょう。

 

左利きに関する面白いスピーチがTEDにありました。5分少々の動画なのでお時間あればご覧ください。

 

「左利きの人がいる理由」ダニエル・M・エイブラムス(2015/2/3)

www.youtube.com

 

現在では世界の人口のおよそ10人に1人が左利きらしいです。こうやってみるとなんとなく多いような気もしますが、確かに言われてみればクラスに2人3人はいたから多分そうなのでしょう。

 

余談ですが、中学生の頃体育でソフトボールをやることになったのに、うちの中学校には左利き用のグローブが一つもありませんでした。野球部がなんとか持ってきた左利き用グローブ一つを僕含め3人で譲り合って使っていた苦い思い出は今でも忘れません。

 

また考古学的(骨密度が違う遺骨の割合等)にも、およそ50万年前からこの比率(左利き10%)だったと言われているようです。50万年前には野球も誕生していないのでグローブを取り合って咽び泣くこともなかったでしょうが、左利き用の道具もこの頃にはすでにあったとされています。

 

でも50万年前から淘汰もされず、増えもせず、全く比率が変わらないのはなぜでしょうか。エイブラムスは先に挙げたスピーチの中で、その理由として「競争圧力と協調圧力のバランス」をあげています。

 

まず競争による圧力。対人スポーツの中にはテニス、野球、ボクシングなど左利きというだけで有利に働くものがたくさんあります。(少なくとも野球は左利き用のグローブが手元にあればですが。)大半の選手が右利きなので、普段の練習相手も自ずと右利きが多くなります。なので右利きの選手への対策は取れる。そこに左利きが出てくると混乱してしまう。一方左利きは普段から右利き相手に練習しているから、違和感なく対峙することができる。

 

人口における不均衡によって左利きの選手が優遇されるこの状況は「負の頻度依存選択」の一例とされていて、進化の理論によると相対的優位のある集団は、その優位性がなくなるまで成長を続けるとされています。戦闘や競争のみを続けていればそのうち左利きの割合は増えて、最終的には半々に(50%が左利き)なるとのことです。

単純に強い方が残る世界ならそうなるであろうことも容易に想像できます。

 

でも世界はそうならない。それに関わってくるのが協調性による圧力だとされています。先に挙げた対人のスポーツであれば、確かに対戦経験の少ない左利きが有利になるのかもしれませんが、そうじゃないスポーツ、例えばゴルフなどでは利き手による優位性はあまりありません。むしろ始めたての頃は道具が手に入りやすい都合上右利きの方が有利だと考えられています。確かに自分の周りでも右利き用のゴルフセットは先輩から後輩に脈々と受け継がれていたのにもかかわらず、左利き用は一度も見たことがありませんでした。だから僕はゴルフを始めませんでした。

 

ゴルフに限らず様々な道具の多くは右利き用にデザインされていて、それが右利き優位な世界を形成しています。スポーツに限らず音楽面でもそうですよね。ギターを始めるにあたり右利き用を買うか、左利き用を買うか迷った左利きの方もたくさんいるんじゃないでしょうか。僕は「他の人のギターを借りた時に弾けなくなることを避けたい」という理由で右利き用を買いましたが、右利きであればそもそもそういう迷いも生まれないですよね。羨ましい。

 

その「競争」と「協調」の絶妙なバランスが保たれている結果、左利きの割合が10%に保たれているというのがエイブラムスの説であり、なんとなく納得してしまいました。これ以上平和な世界では左利きは淘汰されてしまい、これ以上厳しい世界では左利きが増殖する。バロメーターみたいでちょっと面白いです。

 

また、(少なくとも自分の周りでですが)左利きに対する偏見もあまりなくなってきたように感じます。むしろ先に挙げた競争圧力的な部分で左利きが有利になるということから、「矯正する」という選択を取らない人も増えてくるのではと思っています。

また道具に関してもユニバーサルデザインな(右利き左利きどちらでも使える)ものが今後どんどん増えていけば、右手優位になる状況も少なくなっていき、そのうち左利きの割合がもう少し増えていくのではないかというのが持論です。

なので全国各地の小中学校には体育の授業に備えて、左利き用のグローブを必要数購入しておいてほしいものです。

 

最後に、日常不便なことは多々あるけれど、

僕は左利きに生まれたことを嬉しく思っています。

 

シモダ